【神戸】須磨浦山上遊園で「梅」と「海」を同時に眺める。【梅見2024】


 金も、時間も、体力も、精神的ゆとりも、一緒に行楽を楽しむ家族も友人も、すべて、ない。
 僕は、なにも持っていない。
 ギリギリの生活を送っている。

 しかし、1年に1度限りの季節行事を逃すことは、ドケチ根性が許さない。
 旬の時期が過ぎてから行っておけばよかったと後悔しても遅い。

 というわけで、「初春」なので「梅見」に行くことにした。

 どうせなら「阪神間ぶらり」と同時に行おうと考え、ネットで「梅見 阪神間」と検索をかけた。
 過去に行ったことがある、行くのが面倒そう、人が多そう等々の理由で、あれよあれよと選択肢は削られていった。
 残った選択肢が、「須磨浦山上遊園」の梅林だった。

 須磨浦山上遊園は、一応神戸市内だが、三ノ宮よりも西に位置するらしい。
 僕の中の定義では三ノ宮より西は「阪神間」ではないのだが、もう調べるのが面倒なので、そこに行くことにした。
 なんか、「梅」と「海」を同時に眺められるらしいし、ネットの参考画像もいい感じだった。


 経路をググると、阪急でもJRでも阪神でも行けるらしい。どの路線を使うにせよ、途中で「山陽電車」という私鉄に乗り換える必要があるっぽかった。
 三ノ宮以西は、JRの新快速で姫路あたりまですっ飛ばすイメージしかないので、ローカルな私鉄に乗るということで、行楽気分が高まった。

 とりあえず、須磨浦山上遊園は「山」にあるのだから、山側(北側)を走る阪急を利用するのが一番いいのだろうと思い、阪急大阪梅田駅から西を目指した。
 車内で揺られながら、改めて調べると、どうやら阪神を利用するのが正解だったようだ。阪神を使えば、乗り換えなしで行けたらしい(山陽電車が阪神路線を走っている?)。
 阪神電車は、大阪ミナミや奈良方面だけでなく、神戸以西にもアクセスがしやすいようだ。これは引越し先を決めるにあたって記憶しておくべき情報である。

 間違って阪急に乗ってしまったので、神戸三宮から数駅の「新開地」という駅で乗り換えを行った。
 ホームに降り立った瞬間、過去の記憶が蘇った。
 どこに行ったときかはまったく覚えていないが、この駅で、乗車する電車が分からず迷った記憶がある。当時はスマホを持っておらず、阪急に乗っていたはずなのに、駅のホームに見知らぬ車両が停まっていて大混乱した。
 今回は事前に調べていたので、この見知らぬ車両こそが山陽電車なのだと理解できた。
 スムーズに乗り込む。


 ほとんど人が乗っていなかった。(画像は帰りの車内だが、ガチで無人だった。誰もいなかったので写真を撮れた。)
 三宮から西に数駅離れただけなのに、こんなにも人が少なくなることに驚いた。
 人間嫌いの僕は、仕事と生活の利便性さえ保証されるならば、人の少ない田舎に引きこもりたいと常々考えている。その観点から言えば、やはり神戸は居住地として最適な気がする。大阪だと、京都方面(北)も奈良方面(東)も和歌山方面(南)も神戸方面(西)も、数駅離れた程度では基本的に人口密集地が続いている。


 「須磨浦公園駅」に着く。
 すぐ隣が、山上遊園に向かうロープウェイ乗り場だった。
 中国人観光客の集団がいた。おー、観光地やん、と思った。コロナが収束し外国人観光客も復活したようだ。
 チケット購入に手間どっており、随分と待たされたが、外国人観光客なのだから怒っても仕方がない。

 山上遊園をすべてまわるには、「ロープウェイ」「カーレーター」「リフト」という3つの乗り物を利用しなければならない。
 それらすべての「往復セット券」を購入した。1,800円だった。

 ロープウェイ乗り場に着くと、これから登ることになる目的地が見えた。
 おー、山やん、と思った。


 ロープウェイに乗り込むと、先ほどの中国人の集団が席を占領し、なにやら大きな声でしゃべっている。
 中国語は分からず会話の内容は一切不明なので、逆に、彼らの騒がしい話し声は、観光気分を盛り上げるただのBGMとなっていた。決して不快ではない。日本人だと会話の内容が分かってしまう分、鬱陶しい。イヤホンを取り出して、聞きたくもない他人の会話をかき消す必要はなかった。よかった。

 座席が埋まっているので、仕方なく窓際に立った。
 僕が邪魔で、中国人観光客たちは車窓の景色が一部見えないだろうが、それは不可抗力だから、文句を言われる筋合いはない。
 僕の隣に、親に促されたらしい中国人の子どもが立つ。他の乗客は、ますます車窓の景色が見えずらくなる。

 僕らを乗せた巨大な鉄の箱が、ロープに沿って、ゆっくりと登っていく。
 上を見れば、乗り場から見た山が徐々に近づいてくる。それはただの山で、よそのロープウェイとさして変わらない。

 圧巻は、下を見たときの景色だ。
 海が見える。はるか遠くまで、青い海が見える。


 さすが、神戸。
 山と海の距離が、驚くほど近い。
 そこから生まれる、格別な風景。
 実に開放感のある、美しさだ。

 期待値に対する実際の満足度は、もうすでに80パーセント程度まで満たされたが、ドケチの僕は、残りの20パーセントを経験するまで帰るわけにはいかなかった。

 次は、「カーレーター」というよく分からん乗り物に乗った。
 詳細は下記の写真の説明文を読んで欲しい。


 とりあえず、「乗り心地の悪さ」を売り文句にした乗り物とのこと。
 確かに、一部の区間では、暴れ馬に乗っているかのように、大きく座席が揺れた。ガッタンガタガタという騒々しい音に合わせて、僕の頭が揺れる。スマホもしっかり握っていないと吹き飛ばれそうだった。
 確かに、一種のアトラクションとして、楽しめるかもしれない。

 カーレーターを降りると、「回転展望閣」などの施設がある山上遊園の「手前側」に着く。
 そこからでも、梅と海を同時に見ることができた。


 しかし、目指す梅林は、リフトで谷間を超えた「向こう側」にあるらしいので、手前側の観光は後回しにして、とりあえず、リフトに乗ることにした。

 あれだけ騒がしかった中国人観光客の集団は、先に手前側の施設をまわることにしたらしい。
 彼らと別れると、周囲に誰もいなくなった。

 独り、リフトに乗り込む。

 前のリフトには、誰も乗っていない。
 すれ違うリフトにも、誰も乗っていない。
 怖くなって背後を振り返ったが、後のリフトにも誰も乗っていない。

 独り、谷間を進む。

 スピーカーから、のどかな童謡が流れている。少し音割れしている。
 春がきた 春がきた どこにきた♪

 リフトの向かう先に、カラフルなストライプに彩られた巨大テントの屋根が見える。
 その色は、少しくすんで見える。褪せて見える。

 圧倒的な寂寥感。
 無人のパラレルワールドに迷い込んだかのよう。
 その並行世界の時代は、「昭和」。

 降り場近くに係員の姿が見えて、ほっとする。
 誰もいなかったらどうしよう、と本気でビビッていた。
 適切な誘導でスムーズにリフトを降りる。
 遊園の向こう側に降り立つ。

 いきなり、満開の梅の木が僕を出迎えた。


 梅林から離れて、ぽつんと1本植えられた梅。なんか説明書きがあったが、読むの面倒なので無視した。おそらくなにかしらの意味がある梅の木なのだろう。
 梅林への期待が高まった。1本でこれほどなのだから、群生していればどれだけ美しいのか。

 「ミニカーランド」や「サイクルモノレール」といった子ども向けの乗り物は、すべて「運休中」とのことで、どちらにしろ、向こう側には梅林程度しか見るものがなかった。

 足を速めて、梅林に向かう。

 ぐずぐず梅見に行くのをためらっている間に、最盛期は過ぎてしまったらしい。
 半数以上の木が、すでに花を落としていた。


 しかし、残っている木だけでも、そこそこの景観を楽しめるのだった。
 というのも、やはり、梅林の遠景に青い海が見えたからだ。
 こんな景色は今までに見たことがなかった。
 これまで訪れたどの梅林とも違う。


 やはり、「海の見える街」はいいな。
 神戸、いいな。

 おそらく花粉で、遠方の景色は霞んでいた。
 空と海の境が、あいまいだ。
 明石海峡大橋や淡路島も、うっすらとした影が見える程度だった。

 しかし、それでも、この情緒。
 ベストシーズンに訪れたとしたら、どれほど美しいのだろうか。

 遅咲きの品種は、まだまだ観賞に耐え得る。


 最盛期でないということもあってか、梅林に人の姿はまばらだった。
 散りゆく梅のすがたが、人口減少が加速する神戸の街と重なる。
 引っ越すなら早いほうがいいな、と思った。

 「梅と海を同時に眺める」という主目的を果たしたので、リフトに乗って谷間を渡り、山上遊園の「手前側」エリアへと戻る。

 途中スルーしていた「回転展望閣」で、一休みすることにした。
 というのも、「山上遊園」というだけあって、目的地(梅林)まで行き来するだけでも、相当のアップダウンがあったのだ。そこそこの運動量だった。
 当日は季節外れの陽気だったということもあって、手前側に戻ってきたときには、上着を脱いでいても額に汗をかいていた。

 回転展望閣の3Fは、軽食も楽しめる「喫茶コスモス」だった。
 この店は、神戸ポートタワーにあった回転喫茶と同じく、床がゆっくりと動き、360°回転する。座って飲食を楽しみながら、徐々に移り変わる景色を眺めることができる。

 ドーナツをイメージしてもらえば分かりやすいだろう。
 ドーナツの輪の部分に、客席がぐるりと配置されている。
 ドーナツの穴の部分に、不動でなければならない階段や調理スペース、レジカウンターなどが設けられている。
 外周の壁は、ほぼ一面がガラス窓となっている。
 輪の部分が、ゆっくりと回転することで、客は座りながらにして360°の景色を楽しむことができるのだ。

 暑かったので、とりあえず、なにか冷たい飲みものが欲しかった。
 アイスコーヒーなどにするつもりだったのだが、メニューパネルに「メロンクリームソーダ」を見つけてしまった。そのパネルの写真も、長年使用されているらしく、色が褪せていた。
 エモすぎる。
 ノスタルジックすぎる。
 昭和過ぎる。
 躊躇なく、中年のおっさんは「メロンクリームソーダ」を購入する。

 店内に流れるBGMも、80~90年代のJ-Popだった。
 子どもの頃に聞いていた、あんな歌やこんな歌が流れてくる。
 バカほどエモ過ぎて、おっさんの瞳がうるむ。

 席に座って、アイスをつっつき、ソーダをすする。添えられたサクランボを、ぱくり。
 いや、千年ぶりにクリームソーダを飲んだが、炭酸飲料とアイスクリームの相性のよさよ。


 床は、動いているのか動いていないのか分からないほど、ゆっくりと右側に移動していく。
 窓から見える景色も、徐々に移り変わっていく。
 メロンクリームソーダに集中していたら、いつの間にか、景色がずいぶんと変わっていた。
(画像の「飲み始め」と「飲み終わり」の窓の景色を参照。)

 回転スピードを速めると、酔う人がでてくるかもしれないし、飲みものやスープがこぼれてしまうかもしれない。
 この、気づかぬくらいに、ゆっくり回転する、という点がポイントなのだろう。
 アトラクションではない。あくまで、飲食と景色を楽しむ空間なのだ。

 腹が減っていることに気づき、ホットドッグを追加注文した。
 普通にうまかった。
(この時点で、回転展望台はすでに数回転しており、何度目かの最初の位置に戻ってきている。よって、窓から見える景色は1枚目と3枚目でほぼ一緒となる。)

 満足した。
 まったくもって満足した。
 帰ろう。

 カーレーターにガタガタ揺られ、ロープウェイで麓に下り、乗客のいない私鉄に揺られ、電車を乗り換え、「海の見えない街」にある自宅最寄り駅で降り、人ごみの間に紛れる。
 人が少ない「海の見える街」に早く引っ越したいなー、と強く思う。



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