【案内】このブログに何を書くか。
ブログを始めてみた。始めてみたが、書くことが何もない。
それも当然の話で、孤独な負け犬男の日常に、あえて語るべき出来事など一つも起こらない。
最初の記事を投稿してから数十日が過ぎている。この間、ブログのことを忘れていたわけではない。何か書いて投稿しようとは思っていた。だが、書くことがなかった。それだけの話だ。
というのは、嘘。
書くことがないなんて、そんなことあるわけがない。
盲人ではないのだから、瞼を開けば何らかの世界が瞳に映る。聾者ではないのだから、嫌でも様々な音や声が耳に流れ込んでくる。そして僕は人間で、機械人形ではないのだから、それら外界からの刺激に対して何かしら思うところはあったはずなのだ。
美術の授業で、「自分の人生」という題の絵画を描けと言われたとする。僕は「何もない」ことを表現しようと「無色透明色」の絵の具を探す。しかし、そんな絵の具など存在しない。仕方なく、僕はカンバスに何も描かない。美術の授業が終わって、教師が生徒の作品を回収していく。桃色、空色、黄金色、虹色の、様々な色に彩られた美しい絵ばかりだ。教師が僕の「絵」を手に取る。一瞥して、首を傾げる。僕は事情を説明する。教師は激昂し、僕を殴りつける。
「臆病者!」
教師は僕に居残りを命じ、絵を完成させるまで帰るなと告げ、美術室を出て行く。窓から夕陽が射し込んで、僕のカンバスを赤く染める。カラスがどこかで僕を嘲るように鳴く。みるみる陽は沈み、美術室も闇に沈む。いつものように朝日が昇って、室内を眩しく照らし出す。僕は、出勤してきた美術教師に再び殴られることを怖れ、仕方なく、ついに一つの絵の具を手に取る。パレットに絞り出し、筆に付け、カンヴァスをその色で乱雑に染めていく。
何色か?
決まっている。黒だ。
黒だ、黒だ。真っ黒だ。
「人生」という題の絵画を、僕は黒の絵の具で塗り潰す。これが、僕の人生だ。
クラスメイトの、桃色の、空色の、黄金色の、虹色の、彩りに溢れた美しい絵画の中に、僕の真っ黒な絵だけが一点、無残に浮かぶだろう。皆はクスクス笑うだろう。けれど、仕方ないじゃないか。
出勤してきた美術教師は、僕の絵を見て、何も言わず、ただ、僕の頭の上にそっと掌を置く。
僕と美術教師は、生徒たちが登校し始め、校舎全体が日常の喧騒に満たされるまで、朝の静寂の中、二人で「真っ黒」な絵を無言で見続けている。
書くべきことは必ずあるのだ。
たとえそれが「真っ黒」でも。
(※この記事は旧ブログからの移管記事です。2014年冬up)