【和歌山】男一人で白浜を貧乏旅行した。~前編~ 白良浜・円月島

 カネはないが時間はたっぷりあった。JRの青春18きっぷもあった。
 和歌山県・白浜には、その名の通り、純白の砂浜が広がっているという。人生で一度は見たほうがいいよ、と誰かが言っていた。

 数日後、僕は鈍行列車で紀伊半島を南下していた。
 所持金(現金)はたったの1万円。これが今回の旅の予算だ。

いざ、白浜へ。

 いつも乗っているJRの車両が大阪環状線を飛び出す。
 和歌山で乗り換え、さらに南へ。
 南へ進むほど車内から人影が減っていく。車窓から見える景色が、既に日常から遠く離れたことを物語る。

 白浜駅に降り立つ。
 現地での移動は、地元の観光バス(明光バス)のフリー乗車券がおトクだと事前に調べておいた。駅前で係員が盛んに呼び込みをしており、なんら迷うことなく乗車する。
 ※この観光バスは白浜の主要観光スポットを巡回しており、運行間隔もさほど長くないのでオススメだ。僕が購入した2日券は1500円だった。

白良浜で、ぼっち海水浴。

 「白良浜」でバスを降りる。
 早くも旅のメインである白いビーチだ。

 確かに砂浜は白いような気がしたが、それよりも僕はさっさと海に飛び込みたかった。暑かったのだ。バスの外は真夏の炎天下で、直射日光が僕を焼き殺そうとしていた。
 脱衣場に入り、サウナのような湿度の高い熱気が充満する中で水着に着替える。
 砂浜が焼けた石のように熱かった。ビーチサンダルを履いていても足を火傷しそうだった。
 海の家で浮き輪をレンタルし、荷物をすべてコインロッカーにぶち込む。
 浮き輪とサンダルを波打ち際に放置し、海へ。

 海水が足元の砂をさらっていく。砂浜でしか感じられないこの感覚は何度味わっても新鮮だ。
 青暗く冷ややかな海に、火照ったカラダをひたしていく。
 当然のように、気持ちいいのだった。
 浮力で軽くなったカラダを水の中で動かせば、やっぱり普通に、気持ちいいのだった。

 沖に出て足をつったりクラゲに刺されたり波に流されたら大事なので、波打ちぎわ数メートルのところを海岸線に沿って(並行して)行ったり来たりして泳いだ。
 万一何かあっても、すぐさま助けてもらえるよう、ライフセーバーにチラチラ視線を送ることも忘れない。
 ぼっち海水浴では他人に迷惑を掛けないようくれぐれも注意されたい。

 遊泳区間の目安を示すブイのあたりまで行く際には、浮き輪を携帯した。
 ここまで来ると、周りを泳いでいる人も少ない。浮き輪に首の後ろと両手両足をのせて、ひたすらプカプカ浮いていた。
 白浜の太陽は眩しかった。強烈だった。僕の体内に溜まった陰鬱な湿気が熱線によって蒸発していった。その瞬間、僕は確かに健康だった。ような気がする。

ぼっち海水浴の後、海辺を眺めながらアイスクリームを食って一息。
海の家で定番の焼きそばとかき氷も食った。


謎のおっさんと円月島の夕陽を眺める。

 泳ぎ終えた僕は、水着姿のまま荷物をかついで宿に向かった。

道路がどことなく南国風情。

 白良浜から徒歩数分にも関わらず、4000円ほどで泊まれる民宿だった。
 昔ながらの和風建築で、建物の中は薄暗くひっそりしていた。増築を重ねたのか、階段や廊下が入り組んでいた。フロントでは小柄なバアさんがあれやこれやと世間話をはさみながらチェックインの対応をしてくれた。趣(おもむき)がありすぎた。ノスタルジックが過ぎた。
 僕は泣きそうになったが、感傷に浸っている時間はなかった。すぐにチェックインを済ませ、荷物を部屋に置き、風呂(温泉)で砂を洗い流した。
 次の観光スポットへ、夕陽が落ちるまでに向かわねばならなかったからだ。

 急いで目的地へ向かったのはいいものの、到着が早すぎた。まだまだ日が沈むには時間があった。
 近くに足湯があったので、そこで時間を潰すことにした。
 しかし、この暑さの中での足湯は非常に馬鹿げた行為だった。我慢比べかよ、と思った。

しかも温度は火傷しそうなほどに高め。

 さっさとお湯から足を上げて、ただ座って待つことにした。僕と同じようにここで日没を待つ人たちが何人かいた。ここからだと目当ての風景がちょうど眺められたからだ。

「アナタモ 円月島ヲ 見ニ来タノデスカ?」

 変わったイントネーションの日本語で、ふいに声をかけられた。30歳くらいの大柄な男性だった。彼の質問に、え、あ、はい、そうですと答える。
「リョコウ? ドコカラ?」
 近くです関西です。
「ワタシハ カンコクデス」
 へーすごいですね、一人ですか。
「ソウ ニホンイッシュウ シテル」
 へーすごいですね、一人でですか。
 彼は頷く。確かにまわりに同伴者の姿はない。

 適当にあいづちをうっていただけだったのだが、勝手にペラペラ喋るので、彼が大学生の頃に日本に留学した経験を持つ今は商社に勤めるビジネスマンで普段はシンガポールかどこだかに住んでいるが会社から数ヶ月のリフレッシュ休暇を与えられたので学生の頃から夢見ていた日本一周をこの機会に実行することにして既に東京や大阪や沖縄などは回っており景色は屋久島が一番きれいで食い物は北海道のラベンダーソフトクリームが一番うまかった、などの情報が得られた。
 確かに彼の身に付ける服や時計は高価そうで、どことなくアッパークラスのエリートぽかった。サングラスを額に乗っけているのも、それっぽい。しかしそれが厭味な感じに見えないのは、彼の人懐っこそうな人相のせいだろう。
 君も一人だね学生バックパッカーかい? といったような質問をされたので、いえただの貧乏なリーマンで単なる思いつきで白浜に遊びにきただけです、とは何故か答えられず、ええ時間のある学生のうちに僕も日本のいろんな景色を見ておこうと思って、と答えを返したら、それはいいことだねその経験は将来きっと役に立つよ僕も日本に留学していた学生の頃はお金がなくて苦労したけど今こうして日本語も少しは喋れるようになったし云々、と彼は人生論を展開しだした。
 不思議に鬱陶しいと思わなかったのは、彼が韓国人で僕とは遠くかけ離れた存在であったからだろう。同じ日本人のおっさんにこれをやられたら僕は逃げ出すに違いない。彼は長期の一人旅で話し相手にも飢えていたのだろうし、僕の貧乏くさい風貌を見て苦労した学生時代を思い出したのかもしれない。
 ちょっと変わったイントネーションの日本語も、白浜の夕焼けの中で聴くと、なぜか心地いいほどだった。

「ココハ チョット 見ル角度ガ ワルイカモシレナイデスネ 移動シマショウ」
 と彼は言った。

 こうして、僕は韓国人のおっさんと肩を並べて堤防に座り、白浜の絶景「円月島に沈む夕陽」を見ることになった。
 もちろんまわりには他の観光客も大勢いたが、僕と彼はその中の一人と一人ではなく、「僕ら二人」だった。
 なんだこれ、と不思議ななりゆきに心の中で笑った。

 円月島の島の中央には大きな海蝕穴が空いている。円月島を眺める角度によっては、海に沈む夕陽がその穴にスッポリはまって、まるで島が太陽を抱いているかのように見えるらしい。
 結論から言うと、水平線に薄く雲が垂れ込めて、その風景は完全なかたちでは見れなかった。
 しかしそれでも、十分な絶景だった。

 空も海も、おっさんの顔も、オレンジ色に染まっていた。
 すごくロマンチックな情景だった。
 隣りにいるのが韓国人のおっさんでもロマンチックだった。

 夕陽が完全に水平線に沈み、あたりが墨を流したように暗くなっていった。堤防に集まっていた観光客たちも潮が引くようにすうっと音もなく消えていった。

 僕とおっさんは、なんとなく流れで近くのラーメン屋で晩飯を共にすることになった。観光地には似つかわしくないこじんまりとした質素な店で、親子と思われるバアさんとオバさんが2人でやっていた。客は僕らの他にいなかった。代金はおっさんの奢りだった。

和歌山名物という梅干しを使ったラーメンを頼んだ。
小さな梅干しがぽつんと1つ浮かんでいた。
おっさんは普通のとんこつラーメンか何かを食っていた。

 最後に「これからの君の人生は明るいよ頑張って」的な言葉を投げかけられ、おっさんは白浜の夜に消えていった。

 宿に戻ると、いつの間にか布団が敷かれていた。潜り込んだら、清潔なシーツの臭いがした。

布団の中でガリガリ君を食いながら明日の予定を立てる。

※数年前の旅の記録です。今年(2020年)の夏ではありませんのでご了承ください。


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