【大阪】男一人でUSJに行ってきた。 ~クールジャパン2015篇~

 何故このような蛮行に及んだのか――。僕自身にも分からない。しかしそれは実行に移された。
 一人でUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行ってきた。
 全体としての感想を先に述べよう。一人でも十分に楽しめた。帰宅後もニヤついた顔がなかなか戻らなかった。思い返すだけで不気味に笑ってしまう。
 正直ここまで楽しめるとは考えもしなかった。四捨五入で三十路となる大の男が、子ども騙しのテーマパークごときに、ここまで気分を高揚させられてしまうとは……。大丈夫か俺……。と、自分で自分のことが心配にもなる。

 USJは高校の時分以来だった。約10年ぶり。印象が大分違う。当時の印象は「場末の寂れた遊園地」だった。東京ディズニーランドと比べるべくもない。「典型的な第三セクターの失敗例」だった。学生の目にすらそのように映った。ハリウッドやニューヨークの街を模したパーク内は、人類消滅後の世界のようだった。ほとんど誰も歩いていない閑散とした大通りで、煌びやかな電飾だけが必死に瞬いていた。しかしどれだけ明るく輝こうとも客はやってこないのだ。
 今回は違った。
 人類は消滅などしていなかった。パーク内のあらゆる場所は、渋谷のスクランブル交差点のごとき活況を見せていた。圧倒的な人の群れに酔いそうになった。砂糖に群がる蟻のように、密集した群衆が、園内で蠢いていた。

(入場ゲート)



 入園者は皆、群れていた。人々は、友人や、恋人や、家族と、楽しそうに、喋りながら、歩いていた。ソロで行動しているのは僕一人のようだった。事前に予想していたこととはいえ、周囲の視線が気になった。孤独感に襲われ、泣きそうになった。「一人でも全然気にならないよ☆」などと謳うネット上のデマに騙された。帰って死のう……と思った。
 しかし、パークの雰囲気にも慣れてくると、一人で行動している人が意外にも多いことに気付く。ネットの書き込みは嘘ではなかった。高校生風の男子や主婦っぽい中年女や高齢者など、ソリストの属性も多様だった。そもそも入園者はUSJを楽しむことに夢中で、他人にそれほど注意を払っていなかった。
 また、USJには「シングルライダー」なる制度がある。和訳すれば「ぼっち優待制度」。ぼっちは各アトラクションの待ち時間が大幅に短縮される。この制度からも推測できるように、USJ側も「ソロ・インパ(一人で入園すること)」を勧奨しているわけだ。
 世のぼっち諸君、恐るることはない。映画やアニメの世界を現実世界でも大いに楽しもうではないか。


(スタジオガイドブックより)

 今回の最大の目的は、期間限定で開催されている「ユニバーサル・クールジャパン」だった。
 この企画は次の4つの特別アトラクションから構成されている。

  •  エヴァンゲリオン・ザ・リアル4D
  •  進撃の巨人・ザ・リアル
  •  バイオハザード・ザ・エスケープ
  •  モンスターハンター・ザ・リアル

 今回、運良くすべてのアトラクションを体験することができた。感想を述べたい(ただし、モンスターハンターに関しては、原作ゲームを一度もプレイしたことがなく、アトラクション自体も大した内容ではなかったので割愛)。

(なんだろう、このモンスターのモニュメント)




●エヴァンゲリオン・ザ・リアル4D

(ブックガイドより)

 エヴァンゲリオンは、USJお得意の3D映像を駆使した体感シアターだった。
 USJと言えば、3Dシアターやライドである。
 現実世界では再現困難な事象を、観客にリアルに体験させるのに3Dはもってこいだ。3D映像はアニメや映画といった二次元世界を、現実と同じ三次元世界へと転換させる。平面から立体へ。風船に息が吹き込まれるかのようにむくむくと立ち現れたキャラクターの後ろには、どこまでも広がる遠大な背景が広がっており、彼が伸ばした手は僕の目の前にまで迫る。3Dによって極限の「立体感」や「遠近感」を手に入れた虚構世界は、本当に触覚で確認してみないと(実際に触れるかどうかを試してみないと)それが虚構なのか現実なのかが分からないほどリアルだ。
 さらに、今回のアトラクション名に注目して欲しい。「エヴァンゲリオン・ザ・リアル4D」――「4D」だ。3Dよりさらに上。この「+1」部分は、主に「触覚」である。USJの3D系アトラクションは、現実世界を生きる僕らに最後に残されたこの「触覚」という感覚さえ奪いにかかる。
 具体的には、映像に合わせて、座席が振動し、扇風機が風を起こし、空調設備が冷気や熱風を出し、前の座席の背面から水が噴き出し、強烈な閃光照明が会場を包み込む。
 例えば、映像の中で爆発が起これば、座席が大きく振るえ、扇風機から強風が吹きつけ僕らの髪を乱し、まばゆい閃光が目を眩ませる。例えば、映像の中で〈エヴァ〉が〈使徒〉を喰い千切り真っ赤な血飛沫が盛大に宙を飛べば、前の座席の背面から水が噴き出し僕らの顔を濡らす。それは無色透明の単なる水に過ぎないのだが、あたかも僕らは〈使徒〉の血飛沫を顔に浴びたような心持ちになる。
 まさに「4D」。
 近年は3D映画も一般的になったが、この「4D体験」はUSJなど限られた施設でしか味わえないだろう。
 ストーリーは、僕ら観客の乗った脱出用飛空艇が〈エヴァ〉と〈使徒〉との戦闘に巻き込まれる、というものだ。目の前で繰り広げられる激しい戦い。通信画面からは〈ミサト〉の緊迫した声が響く。〈使徒〉の攻撃から僕らを守るべく〈エヴァ〉の巨大な片腕がこちらに向かって、ぬうっ、と伸びてきて――。
 原作ファン狂乱必至の内容だった。


●進撃の巨人・ザ・リアル

 うって変わって、「進撃の巨人・ザ・リアル」は、まさに「リアル」が目玉だった。

(メインである15m級の等身大「エレン巨人」と14m級の「女型の巨人」)

 人形とは思えないほどの躍動感。一瞬を切り取った製作者に拍手だ。
 この2体の足元に立って上を見上げれば、人類の卑小さがよく分かる。同時に、絶望的な体躯の差がありながら、命を賭して巨人に挑む人類の偉大さも分かる。(「巨人」は単なる「不可抗力」のメタファーで、現実の僕ら人類もこの小さな身体で様々な困難に抗い偉業を成し遂げてきた)。

 この戦闘と、屋内で行われるアトラクションは、ストーリーが連動している。今まさに屋外では〈エレン〉が〈女型の巨人〉と戦っているのだという心持ちでアトラクションに臨めば、より一層アトラクションを楽しめるだろう。

(アルミン)
(リヴァイ)
(立体機動装置)
(木の枝にぶら下がった調査兵団員の死体)

 これ以外にも、館内には数多の死体が転がっている。その作りも当然のことながら「リアル」だ。「グロ注意!」の旨は事前にクルー(USJスタッフ)からも警告されるほど。

 また、アトラクションはクルーの誘導によって進行していくのだが、彼らもまたリアルだった。彼らは〈調査兵団〉の団員を演じていた。その演技が徹底しており、僕ら観客は本当に〈訓練兵〉となったような気になる。最後にクルーが「心臓を捧げよ!」(敬礼の合図)と叫ぶと、僕らはすかさず右手の拳を左胸の上に置いたのだった。

(エレンの母親を喰らった巨人。
ジークのry)


●バイオハザード・ザ・エスケープ

(ガイドブックより)

 夜になった。
 最も楽しみにしていた「バイオハザード・ザ・エスケープ」の時間となった。
 このアトラクションは、従来の「バイオハザード・ザ・リアル」と、制限時間内に謎を解き密室から脱出する「リアル脱出ゲーム」を組み合わせたものだという。ゾンビが襲ってくる恐怖と、時間制限付きの謎解きという緊迫感。2つが合わさって、スリルは何倍にも膨れ上がる。
 実際に体験するまでは、これほどのスリルを味わえるとは思ってもいなかった。断言する。これは面白い。最高に、面白い。
 アトラクションを終えた直後、僕を含めたチームの全員が大量の汗を掻いていた。それほど本気で熱中していたということだ。

 このアトラクションは、4人で1つのチームを組んで行われる。
 事前のネット情報では「同じチームになる参加者の顔ぶれが重要」とのことだった。確かに、意思疎通が困難な僕のようなコミュ障や、地元大阪のヤンキーや、他人なんてどうでもいいです二人の世界だけが重要ですと態度で公言しているようなバカップルと同じチームになってしまっては、折角のアトラクションも十分に楽しめないだろう。そう考えた僕は、待ち列に並ぶ瞬間を慎重に見極めた。人の良さそうな親子連れ3人(子どもは中学生くらい)が列に並んだ。今だ、と思った。すぐさま後ろに並んだ。これでこの3人とチームを組めるだろうと思った。が、チーム組みのときにクルーが言った。「あ、お一人の方、すみませんがちょっとお待ちいただけますか~」。僕は絶望した。そしてアトラクションが始まる前だというのに緊張し始めた。僕は一体どんな奴らとチームを組むことになるのか、と。
 結果的に、心配は不要だった。僕と同じチームになったのは、同じくソロで参加した明るい女子大生と、30代後半と思しき温和な夫婦だった。どの人も普通に性格が良かった。僕は大いに安堵した。あとは僕が彼らに不快感を与えないよう注意するだけだった。

 アトラクションが始まった。ストーリーの詳細は面倒なので省略するが、大まかには次の通りだ。
 テレビ局内に多くのゾンビが侵入。建物のセキュリティが発動し、出入口が封鎖。唯一の脱出法は〈アンブレラ社〉特殊部隊の救援ヘリ。それに乗るためには最上階の広間に自力で辿り着かねばならない。先行突入した部隊が可能な限り援護はするが、人数が少ないため、すべてのゲストを常時援護することはできない。さらに、建物内に散布された〈t―ウィルス〉をゾンビもろとも完全に消滅させるため、60分後に建物自体が爆破される。最上階へは60分以内に到着せねばならない。また、自身のゾンビ化を防ぐため、局内のどこかに隠された〈抗ウィルス剤〉を入手する必要もある。
 要は、襲い来るゾンビ共を何とか振り切り、〈抗ウィルス剤〉を手に入れ、60分以内に最上階の大広間に辿り着ければ脱出成功となる。
 セキュリティが発動したせいで建物内のあちこちの扉もロックされ、これらの解除方法を「謎解き」していく。もちろん、〈抗ウィルス剤〉の在り処を考える必要もある。

 エリア内のあちこちに潜み、突如として襲い掛かってくるゾンビ(に扮したクルーたち)。もちろん実際に危害を加えてくることはないが、恐ろしい特殊メイクをし、ゾンビ特有の奇怪な動作でこちらに迫り、恐ろしげな奇声を上げ、腕を振り上げ、壁や棚を殴っては大きな音を立てたりするため、結構な迫力があった。女子大生や夫婦の奥さんの方は金切り声を何度も上げていた。その声がさらに恐怖を高めてくれる。男性だけのチームだと、こうは盛り上がらなかったかもしれない。暗がりの中でゾンビが床に倒れており、それにまったく気付かず、すぐ傍まで近づいてしまい、突如足元でゾンビが唸り声を上げた時は、本当に恐怖した。徘徊するゾンビ以外にも、思いもよらないところに潜み僕らを驚かせてくるゾンビも大勢いた。
 また、クルーの中には〈アンブレラ社〉の特殊部隊員を演じる者もいる。アトラクションの中で彼らがゾンビと共に繰り広げる寸劇は、それ自体が独立してライブショーとなり得るほどの完成度だった。彼らクルーがそれぞれの役どころを完璧に熱演してくれるおかげで、僕らは否応なく「バイオハザード」の世界に引きずり込まれてしまう。単なる「脱出ゲーム」や「お化け屋敷」を越えた確固とした「物語性」がそこには存在した。
 さらに、そうしたクルー(演者)たちが観客である僕らと直に接するのだ。感覚としては、「バイオハザード」の演劇を行っている舞台上に僕らが入っていく感じだった。舞台と客席の間にあるべきはずの両者を隔てる見えない壁は取り払われ、観客自身が舞台上に上がり演者と直接の交流を持つことで、現実と虚構の境目がさらに曖昧になっていた。

 謎解きは、「脱出ゲーム」に慣れていない人には、少し難易度が高いかもしれない。入場ゲートで手渡される専用端末に随時送られてくる「ヒント」がなければ、すべての謎を解くのはなかなか難しいだろう。
 しかし、僕のチームは(僕を除いて)優秀な人間が揃っていた。
 夫婦のご主人の方は極めて論理的な思考の持ち主で、消去法的に答えを導き出し、かつそれが正しい解であることを分かりやすく他の3人に証明した。
 女子大生は直感派で、他の3人が理詰めで考え過ぎて煮詰まったとき、その天才的な閃きでもって謎を解決した。
 夫婦の奥さんの方は、温和な笑顔で初対面である4人のコミュニケーションを促し、チームを一つに団結させた。
 僕は、ない知恵を絞って、なんとか捻り出したアイデアを手当たり次第に口走るだけだった。そしてそれは大抵間違っており、余分な手間と体力をチームに消耗させた。数回に一回、僕のアイデアが当たることもあった。

 4階建ての建物の階段を、僕らは何度も上ったり下りたりした。徐々に呼吸が荒くなり、汗が吹き出した。夫婦の旦那さんの方は、タオルで何度も汗を拭っていた。禿げかけた頭部に残っている髪はビッショリと濡れていった。「もう動けない。後のことは若い人たちに託すよ」と彼は言ったが、女性2人が必死に彼を励まし、僕らは4人で一つ一つの謎を解き、先に進んでいった。

 なんだろう、この連帯感は。
 なんだろう、一つ一つの謎を解いたときに訪れるこの充足感は。

 僕は、久しく経験していなかった特別な感情を味わっていた。
 それは「集団行動」でしか得られない類のものだった。
 こんな感情は子どもの頃に強制的に参加させられたスタンプラリー以来かもしれなかった。もしくは、中高生時代に所属していた部活の大会以来か――。
 僕はこれまでの人生で基本的に「ぼっち」になることを好んで選択してきたし、本来「チーム競技」であるべき会社の仕事でさえ勝手に「個人レベルでのセクショナリズム」を徹底し、一人で業務を行っているような気持ちでいたために、これら「集団行動による課題達成」から得られるプラスの感情をとうの昔に忘れ去っていた。

 アトラクション自体が大いに楽しめるものであった上に、「チーム制」を導入することで孤独な「ぼっち」が滅多に経験できない「連帯感」や「集団行動における達成感」を味わうことができた。
 もう一度言おう。このアトラクションは、最高に、面白かった。60分以内にゴールはできたが、コンプリートクリアは成らなかった。悔いが残る。今作はもう終了したが、同様のイベントが再度あれば、複数回は体験してみたいと思った。




 さて、クールジャパン以外にも、いくつかのアトラクションやショーを回った。簡単に感想を述べる。

●アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド4K3D

 基本的には屋内ライド。そこに3D映像や音響、風、火炎、水などを組み合わせ、あたかも映画の世界に潜り込んだかのような錯覚に搭乗者を陥らせる。スパイダーマンが出す糸でライド(乗り物)が「吊り上げられる感覚」が新鮮。また、シリーズが長く続いていることもあり、敵役が多彩で、それぞれの必殺技が自分に対して繰り出される場面は面白い。


●バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド

 高校生の頃、このアトラクションに初めて乗った時は興奮した。友人たちと猿のように騒ぎまくった。連続して何度乗っても飽きなかった。当時は3D映画すら珍しく、遊園地の乗り物といえばジェットコースター程度しか思い浮かばないような時代。そんな時代にあっては、3D映像を駆使した本アトラクションは、最先端のエキサイティングな娯楽と言えた。
 しかし、今は2015年。初の本格3D映画「アバター」が公開されてから数年が過ぎようとしている。3Dは今や珍しくも何ともない。本アトラクションも、僕には陳腐化した過去の遺物のように映ってしまった。
 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、SFXやアクションのみならず、物語性に魅力があった。限られた短時間では難しいのかもしれないが、もう少しストーリーに拘る必要があるだろう(恐竜が出てくるような大昔にタイムスリップだなんて、映画の魅力が分かっていないとしか言いようがない。親や祖父母が生きているような「ちょっと昔」や、子や孫が生きているような「近未来」に行く点が面白いのに)。


●スペース・ファンタジー・ザ・ライド

 何コレ。めっちゃ酔うんですけど。違う意味で頭の周りを星がチカチカきらめくんですけど。
 ライドの形は、円盤型宇宙船を模したような円形。このライドが、回転する。通常のジェットコースターと同じく急激な上下運動があるのはもちろん、乗り物自体が回転する。前を向いていたと思ったら、後ろ向きになり、後ろ向きで落ちて行ったと思ったら、星空に向かって上昇しており――。ワケが分からない。
 楽しめる人は楽しめると思う。
 僕はあくまでUSJを「映画などのコンテンツを基にしたテーマパーク」だと思っているので、こういう純然たるコースターはいいや。

 さらに、このアトラクションでも「シングルライダー」を用いたのだが、待ち時間が一般よりも長かった。
 一般とシングルライダーで列が分かれる直前まで僕のすぐ後ろに並んでいたカップルが、僕より先にライドに乗っていた。ゲートには「シングルライダー待ち時間25分」「一般待ち時間50分」と掲示されていたのにも関わらず、だ。明らかにおかしい。これは完全にクルーのミスだ。「シングルライダー」の待ち時間が短縮される理由は、ライドの定員に空きを出さないためである。例えば、4人定員のライドに3人グループが乗る場合、1人分の席が空いてしまう。これは効率が悪い。そのような場合に、シングルライダーを優先して乗せるのだ。
 搭乗口でクルーの誘導を見ていた。驚くべきことに彼はこの原則を忠実に守り通していた。本アトラクションの定員は4人だった。客は2人連れや4人グループばかりだった。奇数人はほとんどいなかった。通常のクルーならば、このような場合、2人連れの後にシングルライダーを2人乗せたりするだろう。いつまでも奇数グループを待っていたら、掲示している待ち時間を超過してしまうからだ。しかし、目の前のクルーは本当に奇数人のグループが来るまで、シングルライダーをライドに乗せなかった。結果として、シングルライダーの列は一向に進まない。結局、一般の待ち時間よりも待つはめになった。それなら最初から一般の待ち列に並ぶという話だ。
 USJにはクルーの教育を徹底してもらいたい。


●ザ・ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター

(ホグワーツ特急)

 結論から言えば、時季を間違えた。
 ハリポタと言えば、やはり冬だ。白雪の中を〈ハリー〉たち魔法使いが真っ黒いマントを着て歩いているイメージだ。黒いマントは、白雪にこそ映える。
 実際、エリア内の建物には雪化粧の演出が施されていた。が、初夏の陽射しの下では、屋根に積もった白雪は滑稽なだけだった。

 (夏季限定の「フローズン・バタービール」も甘ったるく、凍っているため、例の「白ひげ」も当然出来ない。)

 ハリポタ・エリアは他にも増して大盛況で、アトラクションのみならず、店に入るにも長蛇の列に並ぶことを要した。
 当日の大阪は夏日。
 顔が火照った。暑さで熱中症にさえなりかねなかった。

 しかし、ただの売店でさえ一つのアトラクションとして立派に成立していた。並ぶ価値はあった。「ハリポタ世代」の僕にとっては、何も買わずとも、店を見学するだけで楽しかった。

(ホグツミード)

 魔法使いの杖を売る「オリバンダーの店」では、原作に倣って種々の杖が売られていた。杖の原料となる木材の特性を詳述した紙もあり、どの木材が自分の杖として適性かを調べることも出来る。原作ファンの胸をくすぐる仕掛けだった。

 さらに映画ファンには生唾ものの各キャラクターの杖をデザインした商品も売られていた。

 〈ホグツミード村〉を一通り見学した後、僕は〈ホグワーツ城〉へと向かった。

 城内に潜入する。
 薄暗い城内では、魔法学校の制服(黒マント)に身を包んだクルーたちが歩き回り、壁に掛けられた油絵の中で肖像が喋り、校長室では〈ダンブルドア先生〉が訓示を垂れ、上階の廊下からは〈ハリー〉〈ロン〉〈ハーマイオニー〉の三人が話し掛けてきた。
 規模こそ小さいもののディティールまでよく作り込まれていた。まるで魔法学校に留学しに来たかのような気分だった。興奮しないはずがない。

 城内を進んでいくと、大人気アトラクション「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー4K3D」の乗降口に辿り着く。
 またもや屋内3Dライドだった。同じ趣向の乗り物は本日数度目だったので少しばかり飽き飽きもしたが、原作や映画の「躍動感」を味わえるのは3Dライドならではだ。村や城などの建築物も確かにリアリティはあったが、それらはあくまで「風景」に過ぎない。風景の中で動き回る「キャラクター」や「魔法界の生き物たち」の「躍動感」を味わうには、3Dライドがうってつけだった。
 〈ハリー〉と一緒に空を飛び、〈クディッチ〉競技場で激しい試合を繰り広げ、目の前の〈スニッチ〉に手を伸ばし、〈ドラゴン〉や〈ディメンダー〉が襲ってくる恐怖に耐える。現実世界ではありえない現象を体験するのに3Dライドほど便利なものはないだろう。

 USJの宣伝に虚飾はなく、エリア全体が「ハリー・ポッター」の世界を忠実に再現していた。このエリアには秋から冬にかけて再び訪れたいと思う。





●ターミネーター2:3-D

 これも10年近く前に体験した。まったく(ほとんど)変わっていない。現実の役者たちと3D映像のコラボレーション。
 「3D映像よりリアルなのは現実の役者」だという認識を今回のUSJでは度々味わった。虚構の世界に観客を引きずり込むために、無理して3Dを多用する必要はない。現実では再現が困難なもののみ3Dを用いればいいのだ。そう考えれば、「人間」などわざわざ3Dで再現する意味がない。それは現実の役者で事足りるし、現実の人間に3D映像の人間が敵うわけもないのだ。
 特に僕のお気に入りの役者は、〈サイバーダイン社・社員〉役の女性だ。彼女が活躍する部分は本来、ショーの前座に過ぎないが、メイン部分に劣らない面白さ。USJが「お笑いの本場・大阪」にあることを思い出させてくれる。彼女の導入がなければ、観客はスムーズに「ターミネーター」の世界に入っていけないだろう。



●ウォーターワールド

 これも以前に何度か観た。ウォーターバイクを駆使したスタントや、半端ない火薬の量が相変わらず凄く、観客は頻繁に悲鳴を上げていた。
 ショーが終わった後は、命綱なしで生のスタントを演じるキャストたちと記念撮影が撮れる。


●ユニバーサル・モンスター・ライブ・ロックンロール・ショー

 これは初めて観た。ミュージカルに興味のある男は少なく、連れと一緒ではなかなか入りづらいショーだった。しかしソロならば、そのような気遣いは一切不要だ。休憩がてら入ってみた。
 「大阪のお笑い芸人」風味の役者たちがモンスターを演じ、華麗に舞い踊り、熱唱する。彼らのパワフルな歌とダンスに自然と手拍子をしてしまった。ナンバーも日本人に馴染みのある曲ばかりで、手拍子のみならず、肩を揺らし、頭をスイングしたくなった。


 以上だ。一日にしてはUSJを存分に楽しめた方だと思う。しかし、体験できなかったアトラクションも大いにある。今回のお目当ては「クールジャパン」だったが、もう一度経験してみたいアトラクションもあることだし、涼しくなってからUSJには再び訪れる予定だ。
 もちろん、一人で。

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