すいかと枝豆とビールで夏を感じる孤独な中年男。【旬の野菜】【旬の果物】


 せめて食物で「夏」を感じないと、2021年の8月は猛暑と長雨だけが思い出になってしなう。
 海水浴も花火も祭もないんだから、せめて、家で「夏」っぽいものを食いたいんだよ、僕は!

 コロナウイルスは、人々を軟禁状態に置いた。
 暗黙のルールを破って自宅を抜け出し酒におぼれた者たちは、炎上の憂き目にあった。

 孤独な中年男である僕も世間の目を恐れて、外で酒を飲むのを控えるようになった。
 感染者数の増加が連日報道されるようになってからは、COVID-19に感染すること自体を恐れて、外食すら控えるようになった。
 「冷やし中華はじめました。」というのぼり旗を見ても、あーはじめましたかー……と呟いて、素通りするしかない。

 ムキ―!!
 もういいもん!!
 別にいいもん!!
 おウチでできるもん!!
 独りでできるもん!!

 ということで、さっそく買い出しに行った。


 すいかに関しては、気分を盛り上げるために1玉丸ごと買って、家で独りで「すいか割り」をやろうか、という馬鹿な考えが一瞬あたまをよぎったが、冷静になって8/1カットのものを購入した。

 家に帰って、さっそく調理開始。
 早くしなければ、東京オリンピックのテレビ中継が始まってしまう。

 枝豆をたっぷりの湯で茹でる。
 湯の中にどれだけ塩を入れても、僕好みの塩加減にならないことは経験で知っていたので、茹であがった後、さらに塩をバサッとふりかけた。
 なにかのテレビ番組でやっていたのだが、塩とアルコールは科学的に相性がいいらしい。塩加減がきついほうがビールのつまみとして合うことは、決して僕の思い込みではない。

 ちなみに、ポテトチップスをつまみに加えたのも同様の理由による。


 すいかに関しては、8/1をさらにカットするか、そのままかぶりつくか、迷ったのだが、まあ、あくまで冷静に? 大人として当然の対応で? さらにカットした。
 しかし、少年漫画の一場面のように、半月状のすいかを両腕に抱えて、大口あけてかぶりつきたい欲はあるので、次回以降、試してみたい。


 どうでもいいことで悩んでいたら、テレビで卓球女子の試合が始まった。
 あわててテレビの前の座卓にできあがった食物を並べて、どかっと床に腰を降ろす。

 缶ビールのプルタブを引く。
 ぷしゅっ。
 小気味のいい音が鳴る。

 ゴクリ。
 まずは喉を潤した。
 うんま。

 おっしゃ、始まるで。

 僕の消化器官も、テレビの中の2人の選手も、準備万端だ。

 カコン、カコン……。
 テレビから卓球のラリー音が聞こえる。

 カッ!
 あっ、決まった。

 ッサー! 
 得点した選手が声を上げる。

 パチパチパチ。
 観客の拍手。

 カコン、カコン、カッ! ッサー! パチパチパチ……。

 カコン、カコン、カッ! ッサー! パチパチパチ……。

 カコン、カコン、カッ! ッサー! パチパチパチ……。

 一定のリズムに従って試合が展開していく。
 そのリズムに合わせるかのように僕の手は動き、皮から飛び出た枝豆が僕の口の中に飛び込んできて、上下の歯がそれを咀嚼する。ときどき枝豆の代わりに、ポテトチップスが口に入ってくる。

 点数が決まるたび、ビールとともに、口の中の食べカスを流し込む。炭酸で口の中をリセットする。
 う~ん、やっぱり夏は、冷えたビール!

 タオル休憩やゲーム間など、すこし長い休止の間に、すいかを味わって食べた。
 甘かった。
 昔のすいかは、こんなに甘くなかった気がする。
 農家の人々のおかげで、塩などかけずとも、すいかの甘さは十二分に感じられた。
 世界は進化しているのだなぁ、人類は着実に技術に磨きをかけているのだなぁ、偉いなぁ、オリンピック選手とか、すいか農家とか、みんな努力して進化してんだなぁ、偉いなぁ、凄いなぁ、と思った。

 まー、とりあえず、うまかった。
 すいかも、2人の卓球選手も。
 
 試合が終わる前に、用意した食物は皿の上から消えていた。


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