【読書】『仕事休んでうつ地獄に行ってきた』(丸岡いずみ著)を読んだ感想。
うつ病に関する分かりやすい対応集。
僕も20代の頃に行ってきたことがある――”うつ地獄”に。
ただし、それは日帰り旅行のようなもの(通院)で、著者のような長期滞在(入院)は未経験。
若干のシンパシーと好奇心から本書を手に取った。
この本は、著者が自身の内面を赤裸々に綴ったエッセイではない。そういった側面も確かにある。しかし、それよりも、いま現在「うつ病」で苦しんでいる当事者たちへ宛てた、著者なりの「うつ病対策ハウツー本」といった色彩が強かった。
実際、終章≪私、うつ病になって考えました!~丸岡的うつ病と上手につきあう心得~≫に多くのページが割かれている。
著者が感じたという「地獄」のような苦しみが、圧倒的な筆致でもって、生々しく描かれていると期待していると、若干肩透かしを食うかもしれない。
装丁のポップな感じと内容の重々しさのギャップを楽しみにしていたのだが、本の内容もわりとポップで、それほど重くはなかった。
事実が淡々と語られ、あっさりしている。
これは、著者の本業がニュースキャスターだったということに起因するのだろう。
報道に求められるのは、原因や結果や対処法などを含めた「事実」であって、過度の内面描写や芸術性は不要だ。
そこで求められるのは、一般性であって、個別性ではない。
この本は、丸岡いずみという一人の女性の内面を「うつ病」を切り口に深く描くというものではなく、彼女の個人的体験を切り口に「うつ病」一般を語る本だ。
だから、文体や構成もライフハック系のブログのように明快で分かりやすい。
現在うつ病で苦しんでいる人、あるいはその周囲の人々にとっては、「うつ病」を知る手頃な読みものとして薦められる。
さて、「うつ病対策ハウツー」の具体例として特に印象に残ったのが、うつ病を「心の病気」ではなく「脳の病気」だと認識するということだ。
この重要性が何度も説かれていた。
「うつ病」は、当人の性格や人格とはまったく関係がない。
ストレスが胃を攻撃すれば胃腸炎になるし、免疫システムを攻撃すれば帯状発疹になるのと同じように、ストレスがたまたま脳を攻撃して「うつ病」になるのだという。
このことを理解して初めて、自身が「うつ病」にかかった事実を素直に受け入れられるという。受け入れて初めて、薬物療法などを通じた適切な治療が可能になるという。
このことに関連して、「うつ病は心の風邪」といった物言いを痛烈に批判している。
「誰もが患う可能性のある病気」という意味で「風邪」という単語を用いたのだろうが、その軽いイメージが「うつ病は自分で治せる」という誤った先入観に繋がっている、と。
この本を読めば、「うつ病」を過度に恐れず、逆に軽くも捉えず、骨折や盲腸や白内障などといった他の病気や怪我と同じように扱うことのできる、冷静な視点が手に入れられるだろう。
また、著者の人生観の変化も「うつ病を再発させないハウツー」として有用だと感じた。
彼女は言う。
うつという大きな病気を経験してからは、正直に言って、世間の物差しなんかより、「自分が幸せかどうかを基準に、生きていたらよかったのかなぁ」と思いをめぐらすこともありました。(中略)
今は、他人から「幸せな人ね」と羨ましがられるより、自分が幸せと感じるほうを向いて歩いています。
大事なのは、「まず、自分」なのですね。
うつ病に限らず「万病の元」であるストレス。それを減らす有用な視点ではないだろうか。