【食物】コンビニ大手3社のクリスマスチキンを買って食った。~孤独中年男の聖夜~

 仕事が終わり帰宅するために乗り込んだ電車の中、いつもよりすこし華やかな感じがして、よく見ると乗客の半数ほどがクリスマスケーキの包みを携えているのだった。しゃれたデザインのふくろに入れられた四角い箱。
 あークリスマスかー、朝起きてから今まで業務外の私的な会話まったくしてなかったから完全に忘れてたなー、と思った。
 “孤独な中年男はクリスマスを楽しんではいけない”という法律はないので、電車を降りた僕は、ひとりでホールケーキ丸ごと食う気満々で洋菓子店に向かったのだが、当然のように売切れ(要予約)だった。
 “孤独な中年男でもクリスマスは絶対に楽しまなければならない”という法律もまたないので、あっさり諦めて、自宅に向かって歩き出した。

 寒風が正面から吹き付けてきて、年々少なくなってくる頭髪を激しく躍らせた。安物の手袋は役に立たず、指先がかじかんできて、コートのポケットに手袋ごと両手をつっこむ。首をすぼめて、クリスマスの夜を歩く。
 街灯や行き交う車のヘッドライトがいつもより明るく感じられ、まるでイルミネーションのよう。

 おっけー分かった、ケーキは諦めるにしても、せめてクリスマスチキンくらいは食おうぜ。

 誰かの声が頭の中で響いた。
 と同時に、セブンイレブンのネオン看板が明るく目に飛び込んできた。その向こうにローソンとファミリーマートの看板も見える。僕が歩いている幹線道路沿いはコンビニ激戦区でもあった。

 おっしゃおっしゃ、都合がええやないの、大手3社のクリスマスチキン食べ比べしてやりまひょ。うひょひょ。

有頂天な声が聞こえた。

 セブンに入って速攻レジに向かってホットスナックコーナーを物色する。
 なかった。
「えっ」声に出てしまった。
 クリスマスチキン、なかった。
 売り切れだった。
 サンタ帽を被った学生アルバイト風の男性店員に念のため確認する。死んだ魚の目をした彼は、「ここになかったら売切れでいいんスよねー」と、気怠そうに隣のレジの女性店員に声をかける。先輩バイトらしい彼女は、これまたサンタ帽を被った頭を小刻みに上下させて、「すみませ~ん」。へらっと笑う。

 意地になった。ケーキはダメもとで臨んでいたからあっさり諦められたが、チキンはコンビニなら絶対あると思い込んでいたので落胆が大きかった。

 いや、絶対3社揃えたろ。ここで諦めたら負けやで。

 何に負けるのかは分からなかったが、確かに、ここで諦めたら試合終了だ。
 2020年のクリスマスは本当に何もないただの1日になってしまう。

 とりあえずセブンでは何も買わず、数軒離れたローソンに入った。

「ほんまゴメンな~助かるわ~」という中年男性の声がした。
「いいんですよぅ大丈夫ですぅ何も予定なかったしぃ」という若い女性の声が応える。
 店長とアルバイトの会話かな。クリスマスイブにシフトを入れて店長がバイトに謝っているのかしら。コンビニも大変ですね、と思った。

 とりあえず、すぐにレジ横のコーナーを確認。案の定、なかった。店長らしきレジの男性に一応訊いてみる。「そうですねッ売切れなんですよッすいませんッ」と彼は言ったが、「ただこういう商品ならありますけどッ」とわざわざレジから出てきて総菜売場からチルド商品のチキンレッグを持ってきた。さすが経営者(たぶん)。商魂たくましい。もしくは単に、良い人。
 しかしながら、「あ。ありがとうございます、でもいいです」と僕は言った。
 が、なんか悪い気がしたので、「あ。じゃあコレください」といつでも売ってる普通のLチキを1個だけ買って、店を出る。

 心が折れそうだった。クリスマスの夜に大の男がいったい何をやっているのか。
 次のファミリーマートで売ってなかったら、ラーメン屋行ってラーメン餃子ライスのセット頼んでついでに唐揚げ単品とビールも頼もう1,500円以上すると思うけどクリスマスだしいっか、と相当具体的に次善策まで検討していた。

 果たして、結果は……。

 あった。
 売ってた。

 しかも補充されたばかりなのか、めっちゃいっぱい売ってた。ソースを塗られ焼かれた鳥の脚が何本も、ヒーターのオレンジの光に照り照りと輝いていた。うわぁチキンレッグの宝石箱やあ~。

 内心の僕は浮かれ踊りまくっていたが、努めて冷静に「あ。そのクリスマスのチキン1個下さい」とレジの中年女性に声を掛けた。
「ありがとうございますー! いつもありがとうございますー!」と女性は言った。その口調や姿勢だけで、この女性が経営者(もしくはその家族)であることが容易に想像がついた。
 書き入れ時ですね、ご商売がんばってください。と思いながら会計を済ませた。

 ここまで来たら絶対に初志を貫徹してやる。
 若干寄り道になるが、セブンとローソンの別の店舗に寄ろうと決意した。

 セブン2店目。
 またもやサンタの帽子を被った店員が、ッサイマセーと声をあげる。セブンは、サンタ帽の着用が全店舗で義務付けられているのかもしれない。おもろ。帽子だけ。というのが、おもろ。いっそのこと赤い服とか白ヒゲとかトナカイの角とかも取り入れてコスプレしたらいいのにと思うが、「サンタの帽子だけ」というのが企業側と従業員側のギリギリの妥協点なのだろう。そのせめぎ合いが想像できて、おもろ。「あ、キミ、今日トナカイのコスプレだから、全身茶色のタイツに角と赤鼻でお願いね」などと言われたら店長の顔面に拳をめり込ませソッコー退職といった事件が聖夜に頻発すること間違いなしなので、ま、致し方なかろう。おもろ。

 肝心のチキンレッグは奇跡的に1本だけ残っていた。ガッツポーズ。
 男女の学生カップルでイチャつきながら仕事をしていると孤独な中年男からあらぬ憎悪を向けられてもおかしくない雰囲気のレジ店員から、ありがたく商品を受け取る。僕は聖夜、孤独に鳥の脚に貪りつきます。

 残るは、ローソンただ一つ。
 売り切れやったら店内で暴れまわってやるからなと思いつつ、ローソン2店目、突入。

 パンパカパーン。祝福のラッパが鳴り響いた。3本くらい残ってた。
 やはり、駅から離れるにしたがって「仕事帰りにコンビニのチキンでも買っていくか……」という客は少なくなるようだ。一軒家が立ち並ぶ住宅街の、家庭を持ったちゃんとした人々は、ちゃんとした経路でクリスマスチキンを手に入れるのだろう(いや、コンビニも「ちゃんとした経路」ですけど、なんか邪道で侘しい感じがどうしてもするよね、っていう……)。

 髪の毛を2色に染め分けた、どう考えても接客業向きとは言えないタイプの、ぶっきらぼうな女の店員から、チキンをゲット。ローテンションの「ぁざます」という言葉も頂いて、こちらの気分までサゲ気味になりかけたが、とは言え、ミッションコンプリート。

 RPGで「三種の神器」という貴重な武具を3つ揃えたときのような、胸の高鳴り。
 僕はとうとう、コンビニ大手3社(セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート)のクリスマスチキンを手に入れたのだ。

 浮かれ気分のスキップで家に帰る。どうしてこんなにウキウキしているのか自分でも分からない。

開封。


 セブンが他の2つに比べて、大きい。その分、値段も若干高めだった気がする。

実食。

セブンイレブン。


 んまい。

ローソン。


 んまい。

ファミリーマート。

 んまい。


 以上、詳細なレビューでした。

 付け加えるとするなら、セブンが一番王道。味も食感も慣れ親しんだクリスマスチキン。普通のサイズなので食べ応えもある。ローソンとファミマはやや小ぶりで、形も似ている。が、食感や味は違う。ローソンはたぶん肉を成型している。肉を骨に巻き付けて丸くして焼いている感じ。食べ進めるにつれ肉が勝手に剝がれてきて、噛み応えはない。味はセブンと同じで普通。ファミリーマートは元からそういう丸い形の肉を焼いたようで、サイズが小さいだけで噛み応えはセブンと同じ。ソース(タレ?)が他に比べて少しスパイシーな味付けで、お酒に合いそうな味だった。

 3本とも骨まで貪りました。この日の晩飯はコレだけでした。ごちそうさまでした。神に感謝。イエスに感謝。キリストに感謝。はいはい。


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