チーズケーキを焼いた。【おっさんの菓子作り】
だっから、俺は「ふつうのチーズケーキ」が食いたいっちゅってんの!
なんやねん、「レア」だとか「スフレ」だとか「バスク風」だとか「濃厚タルト」だとか! しゃらくせえわ!
ふつうでええねん、フツーで。
と思った。
もちろん他社との差別化を図るため耳目をひく個性をチーズケーキに付け足すことを否定するわけではないが、それらが幅をきかせるあまり、「一般的な」「昔ながらの」チーズケーキが市場からどんどん姿を消している。
嘘だと思うなら、近所の洋菓子店に出向いてみるがいい。「ふつうの」チーズケーキを見つけられないから。流行りに神経質なコンビニ業界も同様だ。
スーパーには2個入り350円ほどの「ふつうのチーズケーキ」がかろうじて売っているが、やはり微妙に食感が柔らかく、スフレ的な要素が微妙に混入されている(十分おいしいけどね)。
自分で焼くことにした。
表面にアプリコットジャムが塗られた、本体自体はチーズの酸っぱさが際立って感じられる、「ふわふわ軽い」でも「なめらか濃厚」でもないその中間の食感の、「ふつうのチーズケーキ」が食いたい――と強く思った。
その瞬間、口の中に唾がわくと同時に、ある過去の場面が追想された。
数年前に自分でチーズケーキを焼いたときの記憶である。
クリームチーズを買ってきて、フライパンで焼いたのだ。簡単に作れたわりに、想像以上にうまかった。鮮明に覚えていた。
よし。
今回も自分で焼くことにした。
どのクリームチーズかも覚えていた。「フィラデルフィア」だ。
その箱にチーズケーキをフライパンで焼く方法が記載されていたのだ。混ぜて焼くだけというホットケーキと同等の単純な手順だった。だから自分で焼く気になったのだ。
スーパーに行った。フィラデルフィアのクリームチーズを買った。
箱を開けると、蓋の内側に3種類のチーズケーキのレシピが記載されていた。前回はフライパン焼きの1種類だけだった気がする。メーカーも流行に媚びてやがる。
ふむ、僕が食いたい「ふつうのチーズケーキ」は、3種類の内でいうと、どう考えても「ベイクドチーズケーキ」というやつだ。
今回のレシピは、フライパン焼きではなくなっていた。普通にオーブンで焼くらしい。
なんだと、ふざけんな! と一瞬思った。
過去の僕は、ケーキを焼けるオーブンを所有していなかったから。
だが、しかし、すぐに思い出した。
そうだ、僕が今持っている電子レンジはオーブン機能も充実していたんだった。
いいだろう、オーブンで焼いてやる。
なぜか上から目線で戦闘モードに突入した。
すぐさま近所のホームセンターで「ケーキ型」を購入した。クリームチーズの箱に記載されたレシピに「型は底が抜けるタイプのものが便利です」とあったので、素直に指示に従った。
前回クッキーを焼いた際に用いた「天板」と「クッキングシート」を収納棚などを引っかきまわし探し出した。
クリームチーズ以外の食材はもちろん揃っている。
調理開始。
調理開始。
と言っても、混ぜるだけだ。これは前回と変わらず。
しかし、クリームチーズがクソほど硬かった。力を込めて、混ぜた。ホイッパーが壊れた。銀線が1本、持ち手から外れたのだ。すぐに差し込み直せたが……。
クリームチーズってこんなに硬かったかしら? 細腕のわたしにはとても混ぜられないわ……。
挫折しかけたが、根気よく続けていると、なんとかなめらかな状態になってくれた。
以降は、順調に他の材料を混ぜていった。
クッキングシートを敷いた型に流し込み、オーブンにぶち込み、所定の温度と時間で焼く。
完成した。
想像以上にきれいな焼きあがりだった。うほぉ……と嘆息が漏れた。
実食。
いざ、実食。
うんま。
そうそう、コレコレ~!
前回のフライパン焼きのときと味は同じ~!
うんま、うんまっ!
やはりチーズの酸っぱさが主役でなければならないのだ。
ケーキの風味づけとしてチーズが存在するのではなく、チーズの酸味(と乳製品特有のうま味成分)があくまでも中心であって、その他の材料はそれらをオブラートに包む脇役でしかないのだ。
食感なんて今はどうでもいいのだ。チーズの味を味わえるかが重要なのだ。
アプリコットジャムがあれば、その甘みとチーズの酸っぱさの対比も楽しめただろうが、まあ、それは贅沢というもの。
チーズを菓子としておいしく食せたので、非常に満足だ。
「オーソドックス」は自宅で比較的簡単に作れることが分かったので、市場に溢れる「異端児」たちにも今後は積極的に触れていきたいと思ったのであった。別物と考えれば、両者をおいしく食せる。