思ひ出の製菓材料を探し求めて。【ドレンチェリー】【クッキー2回目】
今をさかのぼること数世紀前、僕は新しいオーブンレンジを買い求め、その性能を測るためにクッキーを焼いた。(詳細はこちら↓)
その際に用いた材料が余っていた。
同じものを作っても芸がないので、クッキー以外の菓子を作ろうと画策した。
ネットで調べた。面倒そうだった。断念した。
そこで、クッキーはクッキーでも、1回目とはすこし趣向の違ったクッキーを作ろうと画策した。
ネットで調べた。
クッキーの世界は奥が深い。一口に「クッキー」と言っても種々様々だ。前回作った「型抜きクッキー」が、どれほど基本中の基本だったかを思い知らされた。
心をへし折られた僕は、大幅なアレンジを断念した。
そのようなわけで、前回作った「基本の型抜きクッキー」に、せめて、なにかのせようと思った。
しかし、なにをのせる?
「ドレンチェリー」を探し求めて。
クッキーにのせるものとして真っ先に浮かんだ材料が、「赤と緑のドライフルーツっぽいやつ」だった。
正確な材料名は定かではなかったが、僕が幼いころ、母親がつくるクッキーには必ずと言っていいほど「それ」がのっていた。
というか、マフィンとかパウンドケーキにも「それ」は入っていた。家庭で作られる菓子には「それ」が入っているのが当然だと思っていた。
本当に久しぶりに「それ」の独特な味を楽しみたいと考えた僕は、さっそく近所のスーパーに赴いた。
製菓材料売り場を確かめる。ドライフルーツや缶詰、飾り用のチョコ、スライスアーモンドなどが並べられている。
しかし、「それ」はなかった。
まったく、品ぞろえの悪い店だ、と憤慨していても仕方がないので、別のスーパーに赴いた。売り場を確認。「それ」はない。
舌打ちをして、3店舗目へ。
ない。
馬鹿な。
「それ」はメジャーな製菓材料であったはずだ。
幼少期、母親におつかいでも頼まれたのか、スーパーで「それ」を買った記憶が確かにある。「それ」は、どんな小さなスーパーにも置いてあったはずだ。
おかしい。
そうか。もしかすると、「それ」は、僕の地元周辺でしか販売されていない郷土品だったのかもしれない。……まさか。あの見た目で日本の郷土菓子なわけがない。
ふむ、訳が分からない。
仕方なく、「それ」の名前を調べる必要もあったので、母親に電話をした。
僕:「アレや、アレ。クッキーとかにのせる、赤い、丸い、ゼリーみたいなやつ」
母:「あ~アレ。さくらんぼや。なんとかチェリーや」
僕:「なんとかチェリー……」
母:「名前、なんやったかいな」
僕:「近所のスーパーに売ってへんのやけど、どこで買えんの?」
母:「最近は売ってへんな」
僕:「なんで」
母:「なんでやろな」
なんという役立たず。
仕方がないので、グーグルで「製菓材料 チェリー」と検索をかけたところ、「それ」の画像が出てきた。グーグル博士はやはり優秀だ。
名前が判明した。
「ドレンチェリー」というらしい。
次に、検索窓に「ドレンチェリー」と打ち込むと、検索候補(関連語)に「売ってない」が表示された。
気になったので、トップに表示された「知恵袋」の投稿を読むと、どうやら、大手のメーカーが製造を中止したために、一般のスーパーには出回らなくなったとのことだった。
製菓材料専門店には売っているとのこと。
最初の画像に戻る。「富澤商店」という製菓材料専門店のサイト(お菓子材料・パン材料・ラッピングなら製菓材料専門店富澤商店通販サイト (tomiz.com))だった。
ネット通販もしているが、大規模なチェーン店らしく、調べると近くに実店舗があった。
この時点で、一刻も早く「ドレンチェリー」のクッキーが食べたくなっていた僕は、ネットではなく、速攻、実店舗に赴くことにした。
富澤商店に到着。
店内の客が女性ばかりだった。ひいっ。
まあ、いいか。製菓材料専門店に男性が立ち入ってはならないという法律はない。
店舗面積がさほど広くないこともあって、ドレンチェリーはすぐに見つかった。わーい。
鮮やかな赤色のドレンチェリーの横には緑色のものもあったが、反対隣には「アンゼリカ」も売っていた。
過去の記憶が蘇った。そうそう、母親はドレンチェリーと同じくらい、このアンゼリカとかいうやつもよく使っていた。これも食いたい。
(※「アンゼリカ」は、「ふきの砂糖漬け」のことらしい。)
買い物カゴにドレンチェリーとアンゼリカを入れて、レジに向かおうと思ったのだが、そういえば前回のクッキー作りの際に「抜き型」がなかったのを思い出した。
「抜き型」は、高かった。1個400円近くした。
すぐそばに「セルクル」という、僕にしてみれば「丸い抜き型」にしか見えない金属性の道具が売っていた。「セルクル」の方が「抜き型」より数百円安かったので、そちらを購入した。
円型以外の抜き型も1つは欲しかったので、「ツリー型」も購入した。
こうして、準備はととのった。(あ、そういや、「伸ばし棒」を買うのを忘れた。)
「ドレンチェリー」と「アンゼリカ」のクッキーを焼いた。
クッキー自体は、1回目とまったく同じ要領で作った。
クッキーの型を抜くのに、お猪口ではなく、ちゃんとした「抜き型(円型は「セルクル」だが)」を使用したことくらいが違う点だ。
今回は、クッキーの上にドレンチェリーとアンゼリカをのせる必要がある。
ドレンチェリーは球形だったので真っ二つにし、アンゼリカは長すぎ・太すぎだったので適当な大きさにカットした。
型抜きした生地を天板の上に並べた。
生地の分量は前回と同じはずなのに、薄く伸ばしすぎたせいか、天板1枚に収まりきらなかった。
しかし、問題はない。新しいオーブンレンジには天板が2枚付いている。
むしろ好都合だ。これで上下の天板で焼きムラが生じるかを調べられる(詳しくは前回の記事参照)。
オーブンに入れ、所定の時間、焼く。
焼きあがった。
うーん、いい匂い!
上下の天板で、焼き色に顕著な違いは見られなかった。
ということは、調理の際に「天板を上に入れるか下に入れるか」で悩む必要はさほどないということだ。
さて、僕は前回、「クッキーは焼いた直後は柔らかいので、サクッとした歯ごたえを楽しみたいなら少し冷まさないといけない」ことを学んでいた。
しかし、焼きたてのクッキーの甘い匂いに抗うことができなかった。
天板から直接、ドレンチェリーとアンゼリカ、それぞれのクッキーを1枚ずつ取って、食べてみる。
まだまだ熱い焼きたてのクッキーに、ふうふう息を吹きかけて、食べる。
うまー。
おいちー。
これぞ、幼少期の思ひ出の味。
焼きたてのクッキーを味わえるのは、手作りの醍醐味でもある。
冷めたクッキーなんていつでも買えるんだから、逆に焼きたて食ったほうがいんじゃね? と、思った。
さて、肝心の「ドレンチェリー」の味であるが、チェリーの瑞々しい風味や、クッキーの甘さと好対照をなす強い酸味は、もちろんなかった。集中して味わえば、ほのかにチェリーの風味・酸味を感じるものの、99%は砂糖の味である。
しかし、これでいい。
このチープな味をこそ、僕は求めていたのだから。
うまー。
おいちー。
記憶だけでなく、精神年齢も幼少期に戻ってクッキーを味わえた。
一方、「アンゼリカ」は、ふきの渋味が十分に感じられた。
そういや、子どもの頃は圧倒的にアンゼリカよりもドレンチェリーの方が好きだったことも思い出した。
やはり子どもは、風味・酸味・渋味などのアクセントよりも、純粋なる甘さを求める存在なのだろう。
入手に手間どったものの、思ひ出のドレンチェリーは、「うまー」だった。