【小説】『ペスト(カミュ著)』を読んだ感想――僕たちはコロナにどう向き合うべきか。

 病魔は無差別に、無作為に、無意味に、標的を選定する。人々はある日突然、職を奪われ、健康を奪われ、家族や友を奪われ、自らの生命を奪われる。
 この不条理に力強く抗う人々を群像劇風に描いた本作。

 著者はこの「抗う意思」にこそ「人間性」の神髄を見出している、と僕には読めた。
 逃避でも受容でもない。レジスタンスだ。不条理に対する「不断の抵抗」という能動的態度こそが人間性を担保する。
 抗い続けるという苦行の果てにしか光はない、と著者が連呼しているようだった。

 この点で〈ランベール〉という登場人物の変遷は重要だ。

 新聞記者としてたまたま取材に来ていたに過ぎない彼は、ペストが蔓延し封鎖された街に閉じ込められてしまう。街の外にいる恋人に逢いたい一心で、〈ランベール〉は街から違法に脱出することを企てる。しかし、〈ランベール〉の企てはなかなか上手くいかず、そうこうしている間に、彼は心変わりをする。
 ペストに苦しむ患者を救うべく心身を削って死闘する医師〈リウー〉が、彼と同じく、愛する妻を市外に残していることを知ったからである。
 〈リウー〉の姿を見て、〈ランベール〉は〈保健隊〉に自発的に志願し街に留まることを決意する。

 ランベールがいうには、彼はあれからまた考えてみたし、今も依然として自分の信じていたとおりに信じているが、しかしもし自分が発って行ったら、きっと恥ずかしい気がするだろう。そんな気持ちがあっては、向うに残して来た彼女を愛するのにも邪魔になるに違いないのだ。しかし、リウーはまっすぐに身を起し、そしてしっかりした声で、それは愚かしいことだし、幸福のほうを選ぶのになにも恥じるところはない、といった。
「そうなんです」と、ランベールはいった。「しかし、自分一人が幸福になるということは、恥ずべきことかもしれないんです」

 〈ランベール〉が街を脱出しようとした動機は紛うことなき真実の愛で、一般的にはそれは「善」である。しかしカミュは、そのような愛に価値を与えない。
 ペストという不条理から目を背け「逃避」した結果として手に入れた愛など無価値であるとカミュは主張しているように思える。

 ペストが収束し都市封鎖が解除された終幕において、仲間と紐帯して不条理に抵抗し続けた〈ランベール〉は、いよいよ恋人と再会し、自身の幸福を心底から味わう。
 カミュは、「不条理から逃避して手に入れる善」と「不条理に抵抗して手に入れる善」を明確に峻別しているように思われる。前者における愛などカミュに言わせれば、動物的選好に等しい受動的感情に過ぎないのかもしれない。

 人間の「抗う意思」に基づく能動的行為。これこそがカミュが見出した人間性の本質だろう。

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