【小説】『あまからカルテット(柚木麻子著)』を読んだ感想――少女コミックのような女4人の友情物語。
人工甘味料の甘さや着色料の鮮やかな色に誘われて、食べるのをやめられない菓子のような小説。
別に批判ではない。そういう菓子が食べたいときもある。自然派の素朴な菓子や一流パティシエが作る凝った菓子だけじゃ、世界はつまんない。
「おふくろの味」という売り文句の惣菜がスーパーで売られているとして、消費者はだれも本当の「おふくろの味」を期待しているわけではない。
その言葉に象徴されるイメージを求めているに過ぎない。
そこでは、「料理が下手なおふくろ」や「和食よりも洋食が得意なおふくろ」は捨象される。
同じように「女の友情」とか「恋と仕事」とかいったイメージも、美化(捨象)して描くことができる。
そこにおけるステレオタイプは、むしろ様式美として好ましいものである。
白雪姫に出てくる王子様はイケメンであればのっぺらぼうでも構わないのだ。
本書でも、登場人物の過度なキャラ化、典型的なストーリー進行などが見られるが、それはそういうものなのだから、素直に楽しむのが正解だろう。
四人の主人公はそれぞれ、「お姫様気質」「他者に頼れない」「自信がない」などの欠点を抱えているが、女の友情の手助けもあり、最終的には自分の弱さを自分の力で克服する。
また、日常ミステリーの要素も入っており、連作短編の最終話以外はその傾向が強い。
物語(謎解き)のキーアイテムに、稲荷寿司、甘食、ハイボール、ラー油、おせちといった食べものが用いられている。
なお、食べものもそうだが、出てくる小道具がいちいち少女趣味で(ハイセンスというよりはそれに憧れる少女の妄想っぽくて)、そこは好みが分かれるかもしれない。
著者の作品は、本作以外に『王妃の帰還』と『ランチのアッコちゃん』を読んだことがあるが、そのときにこういった印象は受けなかったので、著者が意図的に本作ではそうしたのだと思われる。
「ドラマのシナリオライター出身の女流作家」という著者自身を思わせる人物も登場し、「一見安っぽく見える小説があったって別にいいじゃない」という台詞をどこかで吐いていた気がするし、おそらく本作の甘ったるい捨象化も作者の意図によるものだと思われる。
ので、それはそういうものとして楽しめる。
著者が原作を担当した、お笑いグループ「森三中」の黒沢かずこが主演を務めたコメディドラマも面白かった記憶があるし、戯画的な描写・台詞・物語は、著者の拙さの表れではなく単純に強みである。